秋の家族旅行〜奥飛騨・北飛騨と紅葉 2

早寝のため、明け方四時に起きてしまう。目が冴えて眠れないので、メールを打ったり今日の予定を立てたりする。今日の予定は世界遺産巡り。五箇山の二つの合掌造りの集落と、白川郷でのんびりする予定だ。六時半に男の子二人を起こして再度露天風呂につかる。朝食はバイキング、みんなもう限界という所まで詰め込んでいる。旺盛な食欲は見ていて楽しい。私も嫁さんも負けずに普段の倍は食べる。部屋で少しのんびりした後九時半にホテルをチェックアウト、五箇山に向かうことに。

360号線を西に進み、白川郷を北上して五箇山に向かっても良かったのだが、迷った挙げ句、角川から471号線を北上し、県道を西へ進み、水無湖経由で利賀川沿いを北上して、山の神峠を超えて五箇山の平村に出るルートをナビの嫁さんに指示。このルートを選んだことがよくも悪くもこの旅行を盛り上げた。


まず、角川で国道471号線を北へ。次第に山深くなり、二千メートル級の山々に囲まれながら山の中腹に張りつく道路を進む。三十分ほど進むとヘアピンの九十九折りで、カーブはローギアでしか登らない。霧も出てきて、前後に車は走っておらず、対向車ともすれ違わないので次第に不安な気持ちになる。

右は富山方面との分岐路を直進し、県道を水無に。分岐路から水無湖までの中程から、悪路に。石が散乱し、右側の山肌から水が湧き、道路を横切り左の川に流れ込んでいる。もう少し状況が悪くなったら、あるいはパンクしたら引き返そうと決意し、持てるドライビングテクニックのすべてを注ぎ込んで、車の安定に努める。子供たちも不安を感じてはいるのだろうが、いいタイミングで明るく盛り上げてくれる。一人次女だけが「パンクしたら誰も助けに来ないよ」とか言って不安をかき立てる。

悪路は二十分ほどだったろうか、途中二台の乗用車とすれ違い、皆でホッとする。すれ違った車もクロカンタイプではなく、普通の乗用車だったので、肩の荷が下りたような気がする。とたんに、回りの山々や川の絶景が視界に飛び込んできて、時折停車して写真を撮る。

水無湖を過ぎ、利賀川沿いを北上するあたりから、霧も晴れ、道路状態も劇的に改善され、素晴らしいドライブとなる。途中ダムの上に車を止め、紅葉のパノラマを感じ、開放感に包まれる。舗装路がこんなにありがたく感じたことは無い。五箇山に抜ける山の神峠へ利賀川沿いから左折するとき、少し不安がよぎったが、対向車も増え道路も二車線となり、快適な下りのドライブだった。時にはセカンドに入れるエンジンブレーキを多用する。マニュアル車で良かった。そういえば、ワゴンタイプでマニュアル車を見つけるのは困難になってきた。オートマにする気は全く無いので、次は輸入車か八人乗れるクロカンか・・・ノアももう七年、次の車検は通すとして、そろそろ考えねば。

古川から二時間程かかって五箇山の平村を走る国道156号線に到着、不安が霧散し、満足感に包まれる。口には出さなくても皆も同じ様子。満員乗車で良く走ったノアをいたわる。白川郷経由だったら一時間程短縮できただろうが、あの山々の紅葉とこの満足感は味わえなかっただろう。あと不安な気持ちも(笑)。

まず五箇山の相倉集落へ。集落に隣接しているの駐車場に三百円払って車を停め、集落に足を踏み入れてとても驚いた。本当に「日本昔話」の世界だったのだ。田園と曲がりくねった未舗装路に囲まれた素朴な茅葺きの合掌造り。集落を一周しても二十分ぐらいの広さだが、とても心が落ち着く。遺伝子中の祖先の記憶に触れたからか?

長男が道端のつまらん物、例えば防火用の放水栓や軽トラックを指差しては「これも世界遺産?」と私に尋ねてくる。うるさいので、「そんなことを言っていると、もうすぐ『ミスター世界遺産』が現れるぞ」と脅しておく。長男は、合掌村の住人を見つける度に「あの人がミスター世界遺産?」と聞いてくる。しばらく無視(笑)私だけ、そばソフトクリームを食べ、のんびりした後、次の集落に向かう。

五箇山の菅沼集落。駐車料金は無料だが、駐車場は少なめ。しばらく待って警備員に誘導される。ここは、規模も小さめで、道路が整備されているのだが、その分テーマパークのような雰囲気。ゆっくりと一周して車に戻り、白川郷に向かうことに。次女が五平もちを食べていた。歩いている途中少し雨に降られる。

まず、白川郷北の道の駅に寄る。皆、めいめいお土産を買い込む。子供たちも友達へのお土産を選んでいる。私は外のベンチに座って、観光客を眺める。三十分ほどして皆が買い物を終え集まってきた。ここに車を停めたまま集落まで歩いていこうかとも思ったが、雲行きが怪しいので、再度車に乗り白川郷に入る。


白川郷は結構な人出だった。なんとか中心部の町営駐車場に車を止めることができた。まずであい橋を渡り、川洲の集落へ。お土産売り場と飲食店で賑わう。ここは足早に見て、再度であい橋に向かう。 川沿いを歩き、出会い橋を見上げると、空中回廊を沢山の人が歩いているようで不思議に感動的な眺め。そして橋を渡り、白川郷を本格的に散策する。ここは合掌造りと、現代の普通の家が混じり合い、独特の街並み。でもやはり日本の原風景を感じさせる。あぜ道、清流が流れる水路、積み上げられた藁、水車、田園。その中で長男と次女は飛騨牛の串焼を食べている。よくよく考えたら、中二の長女はお土産以外全くお金を使っていない。さすが。

和田家に入って、合掌造りの中を見させてもらう。太い梁は本当に頑丈そうだ。しばらく畳みに腰かけ、感慨に浸る。和田家を出た後、駐車場に向かうが、中二の長女が「お父さん、駐車場の場所分かるの?」と聞いてくる。ぐるぐる回ったので心配になったのだろう。というか、自分ではまったく何処だか分からなくなったに違いない。私は、「分かるに決まっているだろ!俺を誰だと思ってるんだ!」と胸を張って答えるが、小五の次女がいいタイミングで「ただの普通のお父さん」と横からぼそっと口を出す。

陽が傾いてきた。駐車場に戻るともうすぐ午後四時。国道156号線を荘川まで御母衣(みほろ)湖沿いに進む。白山は雲で見えない。荘川以降は東海北陸自動車道の渋滞情報を確認しながら国道156号線をひたすら南下。70キロ程度のいいペースで流れる。郡上八幡の手打ち蕎麦の店で食事を済ませ、渋滞が解消した美並ICで高速に合流。雨は本降りになり、視界を遮る。でも、散策の時に降られなかったので嬉しい。

以下名神名古屋高速知多半島道路と南下し美浜インターで降りる。自宅にたどり着いたのは午後八時二十分。荷物を車から家に運び入れ、さっと風呂に入り、サービスエリアで買った笹寿司で軽くモルツビールを飲む。すると、パジャマに着がえて洗面を終えた長男が私の横に来て照れながらも「お父さん、旅行に連れていってくれてありがとう。おやすみなさい」と私に言って二階に上がっていった。

その言葉を聞いてしばらくしてから、「行って良かった。いい旅になったなあ」としみじみと感じた。